株式会社 夏井&カンパニー

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〔百囀集〕夏井いつきが一句鑑賞

  • 決めるなら決めろワシらは海苔を掻く  旧重信のタイガース

    季語
    海苔
    季節
    初春
    分類
    植物
    鑑賞

     一読、諫早湾干拓事業を巡る論争を思いました。いきなり出現する「決めるなら決めろ」という強い呟きは、誰が誰に向かって発している言葉なのだろうという疑問が湧くのですが、下五「海苔を掻く」という季語によって、状況が立ち上がってきます。
     県や国の方針が転換する度に、振り回されるのは地元住民。干拓のために潮受け堤防の水門を閉鎖してから、養殖海苔の色落ち等の漁業被害が報道されました。水門を開けるか開けないか、二転三転する方策に、日々募る苛立ち。お上がどう決定しようが「ワシら」は我が生活のために海苔を掻くだけだ。「決めるなら決めろ」とは強いシュプレヒコールであり、「ワシら」の無言の抵抗なのです。
       
    (鑑賞:夏井いつき)
    (出典:ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』2015年2月6日放送分)

  • 白梅を挿頭しやりたし相撲取   きらら☆れい

    季語
    白梅
    季節
    初春
    分類
    植物
    鑑賞

    「挿頭し」は「かざし」と読み【上古の日本人が神事に際して髪や冠に挿した草花】を指します。「相撲」も元々は神事として始まったものですから、このあたりの言葉の選び方もよく工夫されています。「相撲」も秋の季語ですが、正月場所が終わる頃を思えば「白梅」との取り合わせに違和感はありませんし、「白梅」が主役の季語として描かれていることはいうまでもありません。
     贔屓にしている「相撲取」に「白梅」を「挿頭し」てやりたいとは、今場所の活躍への賛辞でしょうか。新入幕から気に掛けている力士の新十両を祝う思いかもしれません。堂々たる大銀杏を思うか、やっと結えた小さい髷を思うかで、一句の味わいも変わります。
       
    (鑑賞:夏井いつき)
    (出典:松山市公式サイト『俳句ポスト365』2015年2月13日掲載分)

  • しんしんとソムチャイさんの冬服に  るびい

    季語
    冬服
    季節
    三冬
    分類
    人事
    鑑賞

     「ソムチャイさん」は、南方からの留学生でしょうか、観光客でしょうか。着慣れない「冬服」を着ている「ソムチャイさん」のぎこちない、それでも冬という季節を新鮮な気持ちで楽しんでいる表情までもが想像できる作品です。
     この句を非常にうまく演出しているのが「しんしんと」という上五のオノマトペ。冬の冷気と同時に、降ってくる雪のイメージを膨らませます。さらにそのオノマトペを受け止めているのが、最後の助詞「に」。この助詞が目に入ったとたん「しんしん」なるものが、今「冬の服」に降ってきたかのような印象を与えます。下五の「冬服に」の後の切れのない余情も、深い味わいを残します。
      
    (鑑賞:夏井いつき)
    (出典:松山市公式サイト『俳句ポスト365』2015年2月6日掲載分)

  • 遺骨拾い戻る車列に波の花  波恋治男

    季語
    波の花
    季節
    晩冬
    分類
    地理
    鑑賞

     「遺骨拾い」とあれば、読み手は皆、今まさに骨あげのための長い箸を手にしているのだと想像します。焼き上がったばかりの骨の熱を生々しく感じとる人もいるでしょう。が、続く一語ごとに一句の映像はどんどん変化していきます。
     「遺骨拾い」に続く「戻る」という動作、「戻る」ものが何台も何台も続く黒い「車列」であるという事実、そして「車列」に吹き千切れる「波の花」。
     季語が出現したとたん、熱を帯びた「遺骨」から寒風に飛ぶ「波の花」へと、めまぐるしい臨場感をもって一句の光景が完成します。
     黒い車列へ吹きつける「波の花」は、その色の印象を「遺骨」の色に重ねつつ、忘れ難い光景として作者の心に刻まれているのでしょう。
      
    (鑑賞:夏井いつき)
    (出典:ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』2016年2月5日放送分)

  • 九年母や亀甲墓につづく道  笑松

    季語
    九年母
    季節
    三冬
    分類
    植物
    鑑賞

     最初読んだときにですね、「亀甲墓に」ってなってるいるので、これ亀甲墓が奥にあるんなら「亀甲墓へ続く道」ではないかと思ったんですが。
     ひょっとすると「亀甲墓に」でそこの場所を言っといて、さらに奥に続く道があるという――奥へ奥へ続く道があるというそういうことなのかもしれないなと納得をいたしました。
     光景の描き方としても非常に的確ですし、沖縄らしさというのも正に「亀甲墓」で出ておりますね。
       
    (鑑賞:夏井いつき)
    (出典:ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』2015年1月23日放送分)