株式会社 夏井&カンパニー

句鑑賞とは

俳人 夏井いつきの俳句を様々な方の鑑賞で楽しむページ。発表句を中心に随時、サイトアップしてゆく予定です。

  • 裸木のために青空つめたくす 夏井いつき

    季語
    裸木
    季節
    三冬
    分類
    植物
    鑑賞

    裸木は、裸であるからこそ美しい。裸の木に、つい夕陽の花を咲かせたり、星を飾りたくなってしまうのは、安易な優しさなのかもしれない。花や葉があれば良くて、花も葉もない枯木は可哀想という考えは、優しさの裏に、差別を生むことがあるのかもしれない。裸木に「青空のつめたさ」を与えるという清々しさ。枯木ではなく、裸木という言葉から、潔く前向きな逞しさも感じられる。裸になってもなお凛として枝を伸ばす冬木には、目の覚めるような美しい青空があればいい。そしてその真っ青な空は、さらにつめたくあればいい。本当の優しさについて、私はこの句から、そして作者の様々な活動から、学ばずにはいられない。

  • ここからがオクラの尻尾けなげなり 神楽坂リンダ

    季語
    オクラ
    季節
    三秋
    分類
    植物
    鑑賞

     「ここからがオクラの尻尾」だという「ここから」とは一体どこから?という思いを誰もが持つのが、この句の楽しさ。
     「オクラ」を切っていくと、可愛い星形の断面が幾つも幾つも現れます。次第に細くなる莢の先端に向かって切り続けていくと、星形も次第に小さく小さくなっていきます。星形の断面がついになくなるところを、作者は「ここからがオクラの尻尾」と決めたのでしょう。まな板にある極小の星の形を眺め、なんと「けなげ」であることかと感嘆する作者のまなざしの、なんと優しいことでしょう。
     「オクラ=星」の類想句は多々ありますが、「星」の一語を使わずして無数の星形の断面を見せてくれた、健気な一句であります。

    (鑑賞:夏井いつき)
    (出典:松山市公式サイト『俳句ポスト365』8月16 日掲載分)

  • この団栗ドナルド・キーン氏に似たり 夏井いつき

    季語
    団栗
    季節
    分類
    植物
    鑑賞

    指示代名詞「この」で俳句がスタートすることで、主体が団栗を拾うその瞬間に立ち会ったかのような錯覚を覚える。自身の名前の表記を変えるほど日本を愛し、研究するドナルド氏と、眼前の団栗を重ね合わせることで、彼が日本に来てくれたことへの喜びを伝える。これこそ夏井流のおもてなしだ。「氏」の一字から、ドナルド氏へのリスペクトを忘れない作者の人物像もうっすら想像できる。「似たり」と「けり」ではなく、「たり」を用いて表現したことで、団栗をしげしげと眺める人の優しい眼差しも見える。すべての語が強い効果を持ち、他の語を邪魔しない。上六も、固有名詞も、俳句的には荒技だが、技術を悠々と使いこなして想いを伝えている。

    (鑑賞:黒岩徳将)

  • 抱きたるチェロのかたちの朧かな 夏井いつき

    季語
    季節
    分類
    天文
    鑑賞

    朧夜の居間にチェロを抱いて座って奏でる人。その目鼻も輪郭も定かでなく、音もまた朧である。
    チェロと一体となって響き揺れる姿そのものが朧なのだ。

  • つながれぬ手は垂れ末黒野の太陽 夏井いつき

    季語
    末黒野
    季節
    分類
    地理
    鑑賞

    焦げた枯草の匂いと太陽が黒く照らす大地。
    我々は原初の人間に戻ったように焼き尽くされた末黒野の果てに、言葉もなく手を垂らし立ち尽くす。

1 / 11