株式会社 夏井&カンパニー

桐は天のあをさに冷ゆる花なりき  夏井いつき

季語
桐の花
季節
初夏
分類
植物
鑑賞

 羽衣伝説の天女を思った。
 男によって羽衣を隠された天女は空へ帰る手立てを失い心ならずも人間として地上に住むことになる。男と暮らすうちに男に対する情のようなものが湧いたかもしれない。しかし彼女は羽衣を見つけてしまった。それを纏う時に迷いはほんの少しあったかもしれない。
 が、やはり彼女は空を選んだ。空へ、空へ。その時に人間として過ごした日々の思い出、男への愛情も憎しみもすべてはらはらと舞い落ちて行ったような気がする。
 天女が人であった時は黒かった瞳の色が桐の花の紫に変わり、その心は空の色のようにひんやりとしている。薄紫色の瞳で見下ろした地上には小さくなった男が立ち尽くしている。
  
(鑑賞:矢野リンド)
(出典:句集『伊月集 龍』)