株式会社 夏井&カンパニー

春夕焼塔きりくづす遊びかな  夏井いつき

季語
春夕焼
季節
三春
分類
天文
鑑賞

 商社に勤務して15年目のA子。
 時代の風潮に、総合職という名のもと男性並みに働いてきた。
 ビル9Fのデスクから見える一枚ガラスの大きな窓は大都会の景を映している。夕刻顔を上げると仄赤いそれは使い終えた映画のセットさながら少し現実味に欠けて見えた。
 それを頭の中で切り崩してみたくなる。幼いころ砂場で作った塔を夕暮れにはきりくづしていたように。その遊びは楽しかった。何かをリセットする心地よさ。春の夕焼けがまた明日作ればよいと後押ししてくれるから。
 ガラス超しの春夕焼けにA子は今きりくづすべきものを想う。積みあがるだけのデータベース、上司Bとのこと、等々。
   
(鑑賞:ときこ)
(出典:句集『伊月集 龍』)