株式会社 夏井&カンパニー

微笑みて革手袋は脱がずをり  夏井いつき

季語
手袋
季節
三冬
分類
人事
鑑賞

 男が微笑みながら女に近づき、首を締めようとしている。指紋が残らないよう手袋はそのままに。
 いや違う。寂しそうな微笑みが見える。別れの場面。手袋も脱げぬほどの悲しみのまま、ソファに深く沈み込んでいる。微笑んでいるだけに、その寂しさは大きい。
 サスペンスの要素を排除したのは「をり」の効果。ただただそこにいるだけしかできな……いやいや、違う!「脱げず」ではなく「脱がず」だ。
 相反する行為に、微笑みが一気に胡散臭いものに変わり、「革」も、ワルの印象を担いだした。やはり、サスペンスだったか。そして、「をり」は、「をり」として、動作を表すだけのものに変わる。
 言葉は不思議だ。
    
(鑑賞:天野姫城)
(出典:句集『伊月集 龍』)