株式会社 夏井&カンパニー

鉄筆で描く枯野のすさまじき   麦太朗

季語
枯野
季節
三冬
分類
地理
鑑賞

 「鉄筆で描く」とは銅版画でしょうか。蕭条たる「枯野」の草の一本一本、風にゆれる枯草の表情、雲の裂け目から射す光の明暗を、ニードルと呼ばれる「鉄筆」は彫りだしていきます。銅板に刻まれる微細な傷がやがて銅版画の線描となっていくそのさまを、作者は「すさまじき」と表現しました。と、同時にその傷によって表現される「枯野」という存在もまた「すさまじき」ものであるよと詠嘆しているのでしょう。銅版画として刷り出される黒白の世界もまた、「枯野」という存在を表現する色彩であります。
 「すさまじ」も季語ですから、季重なりを指摘する向きはあるかと思いますが、この句の場合は「枯野」という主たる季語の修飾語として機能しつつ、補助的な季語として効果を発揮していると考えてよいでしょう。
 また、銅版画で描かれた「枯野」は季語として機能していないと断ずる考え方もあるかとは思いますが、この「すさまじき」銅版画を描いている人物の眼の奥には、「枯野」という季語が生々しく息づいているに違い有りません。その手応えこそが、季語そのものを感知させてくれるのではないかと考える次第です。
 
(鑑賞:夏井いつき)
(出典:松山市公式サイト『俳句ポスト365』2014年12月20日掲載分)