株式会社 夏井&カンパニー

ていねいにおじぎして菊日和かな  夏井いつき

季語
菊日和
季節
仲秋
分類
天文
鑑賞

 窓を開けると爽やかな風が部屋に飛び込んでくる。そのまま庭に出ると、隣の家の奥さんが菊の手入れをしていた。丹精込めて育ているだけあって今年も美しく咲いている。
 奥さんと目が合い、正直、まだ誰かと話すのは辛かったが、夫の葬儀に足を運んでくれたことの御礼を伝える。奥さんは驚いた顔をして「もう御身体は平気なんですか?」と声をかけてくれる。全然平気じゃない。死にたくて死にたくてずっと泣きとおしてた。だけどいくら泣いても死ねないということが分かっただけだった。夫のいないつまらなくも美しい世界で当分生きていくしかない。鮮やかな菊を眺めつつ、最後にもう一度ていねいにお辞儀をして部屋へ戻った。
 
(鑑賞:24516(にしこういちろう))
(出典:句集『伊月集 龍』)