株式会社 夏井&カンパニー

ふるへあふ音叉のごとく曼珠沙華  夏井いつき

季語
曼珠沙華
季節
仲秋
分類
植物
鑑賞

 初めて音叉を見た時は、何のための道具なのか見当がつかなかった。細長い鋼の棒がUの字に曲げられ、中央に柄がついている。その柄が共鳴箱と呼ばれる木の箱に突き刺さるように固定されている様子は、まるで木の箱から鋼の植物が生えているように見えた。
 何度見ても、曼珠沙華は不思議な植物だ。葉が一枚もない状態でいきなり茎が伸びて花を咲かせる。群生していても茎は一本ずつ独立しているので、風を受けた時も一斉に揺れ始めるのではなく、少しずつずれて揺れ始める。それは、一つの音叉を叩いて鳴らすと、近くにある他の音叉が共鳴して自ら振動し、音を鳴らし始める様子と似ている。さて私は、何と「ふるへあふ」ことにしようか。

(鑑賞:片野瑞木)
(出典:句集『伊月集 龍』)