株式会社 夏井&カンパニー

夕蝉をにぎるだんだんつよくにぎる  夏井いつき

季語
夕蝉
季節
晩夏
分類
動物
鑑賞

 夕蝉の「夕」という字が妖しい雰囲気を醸し出している。
 蝉を握ったことはないがその感触はありありと想像できる。
 細い電線が張り巡らされたような蝉の羽、中にぎっしり詰め込まれたものを感じさせながらギシギシ動く胴体、黒い目。握った手の中で蝉が放電を行っているようだ。それ以上力を入れたら蝉は壊れてしまうよと声をかけたくなる。
 なぜそのようなことになったのだろうか。目の前に蝉を握らなければならない光景が繰り広げられているのか、それとも握っている人の心の中に、昏さを感じさせる光景が浮かんでいるのか。薄い暗闇の中で気持ちが追いつめられて行く。最後の最後で手は開かれたような気はする。蝉は飛び立ち汗ばんだ掌が残る。
(鑑賞:矢野リンド)
(出典:句集『伊月集 梟』)