株式会社 夏井&カンパニー

蛍火やキトラ古墳に獣の絵  桜井教人

季語
蛍火
季節
仲夏
分類
動物
鑑賞

 「キトラ古墳」は奈良県明日香村の古墳。亀虎古墳とも書くのだそうです。現在私たちが入っていくことは出来ない「キトラ古墳」ですが、かつて「キトラ古墳」が封印される前、この古墳に絵を描いた人物がいたはずです。古墳の中に灯された松明に、描きかけの「獣の絵」がゆらりゆらりと揺れていたはずです。一日の作業が終わり、静けさを取り戻した古墳内の闇に、「蛍火」が一つ二つと点滅する光景が、作者の脳内でありありと再生されていてこそ、生まれた一句。生きて在る「蛍」の「火」と、壁画に描かれた「獣」たち。黴臭い古墳の匂いと、生臭い蛍の匂い。虚の「蛍」と実の「蛍」。そんな断片がコラージュのように浮かんでは消える作品です。
(鑑賞:夏井いつき)
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』 2014年6月20日掲載分)