株式会社 夏井&カンパニー

蔓薔薇や硝子のかけら踏める音  夏井いつき

季語
蔓薔薇
季節
初夏
分類
植物
鑑賞

 一読、見捨てられた庭を思った。(外とは塀で隔てられていて中の様子は入ってみなければわからない。)持ち主は亡くなるか去ってしまっている。長い時間扉を閉められていた庭の錆び付いた扉を開けて何かの理由で恐る恐る入っていく様子を想像した。眠り姫の城に入っていく王子のような感じ。蔓薔薇は世話をする人を失ってその枝を庭中に伸ばしている。
 蔓薔薇には棘があり強く握れば血が噴き出る。花は可憐だがうかうかと近づいてはいけない。硝子のかけらもやはり裸足で踏めば怪我をしかねない。靴音はその危険を知らせる硬質な音。何か後ろめたいことをしているようなこれから物語が始まるようなそんな音。小さな虫の羽音まで聞こえてくる。
(鑑賞:矢野リンド)
(出典:句集『伊月集 龍』)