株式会社 夏井&カンパニー

重力を離るるさびしさに蝶は  夏井いつき

季語
季節
三春
分類
動物
鑑賞

 古来より人間は空に憧れ、空を飛びたいと願っていた。蝶のように軽々と地を離れ、自由に舞い踊れたら、どれほど素晴らしいかと。
 けれども蝶は、本当はさびしいのではないか。羽化の瞬間、蝶は地球の重力が自分を引き留めてはくれないことを悟る。そして自由と引き換えに深い孤独を身の内に抱えつつ飛び立つ。あの頼りなさげに飛ぶ様は、自らを留め置かない大地を狂おしく恋うている姿でありはしないか。
 人間は知恵と技術によって、ついに翼を手に入れた。重力を克服し、空を飛び、宇宙さえも行けるようになった。それは人類の永年の念願を叶えたが、同時に心に僅かなさびしさを棲まわせることになった。蝶のように。
(鑑賞:鞠月けい)
(出典:句集『蝶語』)